本人確認だけでは不十分!?古物商に課される取引の記録義務

古物の取引をする場合、古物商は取引相手の真偽を確認するために、法令で定める方法により本人確認をしなければなりません。


しかし、古物の取引において、古物商は本人確認を済ませただけでは、すべての義務を果たしているとは言えません。

なぜなら、原則として古物商は、古物の取引を帳簿(古物台帳)に記録しなければならないことになっているからです。

今回は、古物商の三大義務の1つとされている取引の記録義務についてご紹介します。

取引の記録義務

古物営業法では、古物商が古物の取引を行う場合における帳簿(古物台帳)への記載またはパソコンによる記録の義務について定められています。

古物営業法16条(抜粋)

  • 古物商は、売買若しくは交換のため、又は売買若しくは交換の委託により、古物を受け取り、又は引き渡したときは、その都度、次に掲げる事項を、帳簿若しくは国家公安委員会規則で定めるこれに準ずる書類に記載をし、又は電磁的方法により記録をしておかなければならない。



古物商は、次の営業行為により古物を受け取り、または引き渡す場合は、その取引の記録をしなければなりません。

  1. 古物の売買
  2. 古物の交換
  3. 古物の売買または交換の委託



つまり、古物の占有を移転する場合には、常にその取引について記録しなければならないということです。

なお、この記録義務に違反したり、虚偽の記録をすると、6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性がありますので注意が必要です。

記録の方法

古物商は、次のいずれかの方法により、取引の記録をしておかなければなりません。

  1. 帳簿(古物台帳)への記載
  2. 国家公安委員会規則で定める帳簿に準ずる書類への記載
  3. パソコンによる記録

国家公安委員会規則で定める帳簿に準ずる書類

記録方法の1つである「国家公安委員会で定める帳簿に準ずる書類への記載」とは、次のいずれかに該当する書類のことです。

    古物営業法施行規則17条2項(抜粋)

  1. 記載すべき事項を当該営業所又は古物市場における取引の順に記載することができる様式の書類
  2. 取引伝票その他これに類する書類であって、記載すべき事項を取引ごとに記載することができる様式のもの



なお、取引伝票にような、取引ごとに記載するタイプのものを採用する場合には、取引の順に綴じ合わせておかなければなりません。

古物営業法施行規則17条3項(抜粋)

  • 古物商又は古物市場主は、書類に記載をしたときは、当該書類を当該営業所又は古物市場における取引の順にとじ合わせておかなければならない。

記録すべき事項

帳簿(古物台帳)に記録すべき事項は次の通りです。

  1. 取引の年月日
  2. 古物の品目および数量
  3. 古物の特徴
  4. 古物を受け取り、または引き渡した相手方の住所、氏名、職業および年齢
  5. 相手方の確認のためにとった措置の区分



非対面で取引した場合には、身分証明書などのコピーや画像も一緒に記録および保管をしておく必要がありますのでご注意ください。

宝石・貴金属等を取り扱う古物商は要注意!

ここでは深く掘り下げませんが、宝石・貴金属等を取り扱う古物商が200万円を超える現金売買をする場合、犯罪収益移転防止法により、上記の記録事項に加えて次の項目も記録しなければなりません。

  1. 相手方の生年月日
  2. 本人確認を行った者の氏名
  3. 本人確認記録の作成者の氏名
  4. 本人確認書類またはその写しを提示または送付を受けたときは、その日付
  5. 本人確認のために事業者が取引関係文書を送付したときは、その日付
  6. 取引の種類
  7. 本人確認書類の提示を受けたときは、その書類を特定するに足りる事項
  8. 取引記録等を検索するための口座番号その他の事項
  9. 口座番号その他の顧客等の本人確認記録を検索するための事項
  10. 取引に係る財産の価格

保存期間

取引の記録の保存期間は、古物営業法では3年とされていますが、宝石・貴金属等を取り扱う古物商に限っては、200万円を超える現金売買の場合は、犯罪収益移転防止法が優先され7年となりますので注意が必要です。

帳簿(古物台帳)の様式例

上記の記録事項をもれなく記載できる帳簿であれば、様式は自由ですが、法令によって様式が示されていますので、法令で定められている以下の様式を参考にされるとよいでしょう。
別記様式15
画像をクリックすると拡大できます。

<記載事項の留意点>

  1. 「受入れ」の「区別」欄には、買受けまたは委託の別を記載し、「払出し」の「区別」欄には、売却、委託に基づく引渡しまたは返還の別を記載すること。
  2. 「品目」欄は、一品ごとに記載すること。
  3. 「特徴」欄は、例えば、「オメガ、何型、何番、文字盤に傷あり」、「上衣、シングル、ネーム入り」のように特徴を記載すること。
  4. 現に使用している帳簿にすでに住所、氏名、職業および年齢が記載してある者については、氏名以外の事項で異動のないものの記載は、省略することができる。

記入例

上記の帳簿(古物台帳)の記入例は、以下の通りです。参考にしてみてください。
記入例
クリックすると画像を拡大できます。

自動車の取引については記載事項が増えました!(平成30年10月~)

古物営業法施行規則の改正により平成30年10月24日から、自動車の取引については帳簿の特徴欄に次の事項を記載しなければならなくなりました。

  1. 検査証記載のナンバー
  2. 車名
  3. 車台番号
  4. 所有者の氏名等

古物市場主の取引の記録義務

古物商だけでなく、古物市場主にも取引の記録義務が課されています。

古物営業法17条(要約)

  • 古物市場主は、その古物市場において売買され、又は交換される古物につき、取引の都度、取引の年月日、古物の品目及び数量、古物の特徴、並びに取引の当事者の住所及び氏名を帳簿等に記載をし、又は電磁的方法により記録をしておかなければならない。



記録すべき事項は古物商と同様で、以下の通りです。

  1. 取引の年月日
  2. 古物の品目および数量
  3. 古物の特徴
  4. 取引の当事者の住所および氏名



この記録義務に違反したり、虚偽の記録をすると、古物商と同様に6月以下の懲役または30万円以下の罰金に処される可能性があります。

古物市場主の帳簿(古物台帳)の様式例

古物商の帳簿と同様に、上記の記録事項をもれなく記載できる帳簿であれば、様式は自由ですが、法令によって様式が示されていますので、法令で定められている以下の様式を参考にされるとよいでしょう。
古物市場主の記入例
クリックすると画像を拡大できます。

<記載事項の留意点>

  • 「品目」欄は、一品ごとに記載することとし、同欄には、例えば、「金側腕時計」、「紺サージ背広三つぞろい」のように品名を記載すること。ただし、同一種類の製品で、区別しにくいものは、一括して記載することができる。
  • 「特徴」欄には、例えば、「オメガ、何型、何番、文字板に傷あり」、「上衣、シングル、ネーム入り」のように特徴を記載すること。

記録義務の例外

これまで、古物の取引には相手の確認だけでは不十分で、取引の記録をしなければならないと散々述べてきましたが、実は取引の記録義務には、例外が認められており、記録しなくてもよい場合が存在しています。

記録義務の例外には、全部免除と一部免除があります。それぞれ確認していきましょう。

全部が免除される場合

次の場合には、記録義務の全部が免除されます。

  1. 買受けまたは売却の対価の総額が1万円未満の取引の場合
  2. 自己が売却した物品を当該売却の相手方から買い受けるとき
    (200万円を超える宝石・貴金属等の現金売買を除く)



買受けまたは売却の対価の総額が1万円未満の取引の場合は、記録義務が免除されます。

ただし、バイク、原付、ゲームソフト、CD、DVD、レーザーディスク等、書籍については、対価の総額が1万円未満であっても記録義務は免除されません。

これは、窃盗等の犯罪の被害状況や盗品等の古物商への流入の実態を勘案して、少額取引であっても特に盗品等の流入を防止すべき必要性があると考えられるからです。

これらの物品は窃盗されやすいうえに頻繁に取引されるものですから、他の古物に比べて規制が特に厳しくなっています。

なお、バイク、原付の部品であって、ボルトやナットなどの汎用性のある部品は除かれます。

売却の場合だけ記録義務が免除される場合

次に該当しない古物は、売却については記録義務が免除されます。

古物営業法施行規則18条1項

  1. 美術品類
  2. 時計・宝飾品類
  3. 自動車(その部品を含む)
  4. バイク、原付(対価の総額が1万円未満で取引される部品、または汎用性がある部品を除く)



上記に列挙した古物以外のものは、その取引価格の総額が1万円未満であれば、取引の記録義務は免除されることになります。

つまり、古物の少額の売却において、ほとんどの物品については、取引の記録をしなくてもよいということになります。

これは、被害品の移転先を明確にし、被害者による被害品の回復を容易にする必要性が特に認められるものを除き、売却の際の記録義務を免除したものです。

高額な装飾品、自動車や狙われやすいバイクなどは、特に規制が厳しくなっていると考えられます。

なお、バイクや原付の部品のうち、ボルトやナットなどの汎用性のあるもの以外の部品類(マフラー、タイヤなど)は、1万円未満の対価で取引する場合には、売却の際の記録義務は免除されます。

相手の住所、氏名、職業、年齢の記録義務が免除される場合

自動車を取引する場合には、原則として記録義務はありますが、記録すべき事項のうち、住所、氏名、職業、年齢の記録義務は免除されています。

これは、自動車には法律上の登録制度が存在しているため、相手の記録義務を課さなくてもその相手を特定することが可能だからです。

まとめ

いかがでしょうか?

帳簿(古物台帳)の記録義務は、古物商の三大義務の一つと言われており、非常に重要な義務となっています。

しかし、その内容にはいろいろな例外が含まれていて、一度にすべてを理解するのは大変だと思います。

取引の記録義務について、以下に表で示しておきます。情報を整理しておきましょう。

取引の形態 売却の場合 買取りの場合
対価の総額が1万円以上 美術品類、時計・宝飾品類、自動車、バイク、原付(部品を含む)の場合のみ記録義務がある。
自動車の場合は、相手の住所、氏名、職業、年齢の記録義務は不要。
200万円を超える宝石・貴金属の現金売買は義務あり。
すべて古物について取引の記録義務がある。
対価の総額が1万円未満 バイク、原付(部品を除く)の場合のみ記録義務がある。 ゲームソフト、バイク、原付(汎用性のあるものを除いた部品を含む)、書籍、CD、DVD、ブルーレイなどの場合には記録義務がある。

参考にしてみてください。